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東京地方裁判所 平成8年(ワ)11266号 判決 1998年8月28日

東京都港区<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

桜井健夫

東京都中央区<以下省略>

被告

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

尾崎行正

右訴訟復代理人弁護士

上杉雅央

右同

飯塚孝徳

主文

一  被告は原告に対し、金三七一万円及びこれに対する平成八年六月二五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを七分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金二四三一万一六一六円及びこれに対する平成八年六月二五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告からワラントを購入した原告が、被告とのワラント取引に際し被告の外務員から違法な勧誘があったとして、被告に対し不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づく損害賠償請求をした事案である。

一  前提事実(証拠等を特記した以外の事実は争いがない。)

1  原告は、昭和一一年○月○日生まれの男性で、もと○○新聞の記者を勤め、昭和六三年一一月、被告野村證券株式会社(以下「被告会社」という。)との取引を開始した当時社団法人a協会の専務理事であった。原告は被告会社の新宿支店に口座を開き、現物株の取引を中心に、社債、投資信託等も取引してきており、その具体的取引内容は別紙売買取引計書記載のとおりである(以下、この過去の取引を「過去取引」という。)。

被告は、有価証券売買の取次等を目的とする株式会社であり、平成六年一一月末ころ(乙一一、証人B)、被告会社新宿支店の訴外B(以下「B」という。)が原告の担当になった。原告と被告との本件各ワラント取引の期間における被告新宿支店の支店長は、訴外C(以下「C」という。)であった。

2  原告と被告会社新宿支店との間の平成六年一二月七日以降の取引内容は、別表1記載のとおりであり、原告が本件ワラント取引による損失を被ったものは、①五回フジクラワラント(平成六年一二月七日買、平成七年一二月二〇日売)、②二回ユニデンワラント(平成六年一二月七日買、平成七年一二月二〇日売)、③四回住友大阪セメントワラント(平成七年一月二六日買、同年一二月二〇日売)、④一回ミサワホームワラント(平成七年二月一日買、権利消滅)であって、右①による損失は金三七五万八三八六円、右②による損失は金四七三万一七二九円、右③による損失は金三九二万一円、右④による損失は九六九万一五〇〇円、以上合計金二二一〇万一六一六円である。

二  争点

Bによる原告への本件勧誘行為が、

1  販売禁止(本件各ワラントを価値がないにもかかわらず販売したことの違法性)に違反するか。

2  適合性の原則に違反するか。

3  説明義務に違反するか。

4  断定的判断の提供といえるか。

5  強引かつ執拗な勧誘といえるか。

6  ワラントであることを明示しないでする勧誘であったか。

7  違法とされた場合の原告の損害額

三  争点に関する当事者双方の主張の要旨

(原告)

1 争点1について

本件各ワラントは、価格がいずれも一〇ポイント以下で、それ自体価値のないギャンブルの道具にすぎなく(ギャンブルのチップ状態のもの)、また最後の取引ワラントであるミサワホームワラントは、そのうえ権利行使期限が一年未満のものであり、いずれにせよ劣悪な商品であるからこのようなものを一般投資家に販売すること自体が違法である。

2 争点2について

原告は株の現物取引以上のリスクのある取引をした経験もなければその意向もなかったのであるから、通常のワラント取引を勧誘することですら適合性に違反するのに、本件各ワラント取引はそれよりもさらにリスクが大きい取引であるから、そのような取引の勧誘をすることは適合性原則に明白に違反する。

3 争点3について

被告は原告に対し、ワラントの正しい性質やリスク、ワラント取引が相対・仕切りの取引であること、本件各ワラントの場合株価が行使価格を大きく下回っており、それ自体無価値であること、及び権利行使期間が短いこととその意味について説明すべき義務があったにもかかわらず、その義務に違反してこれをしなかった。

4 争点4について

Bは原告に対し、「私が勧めるユニデン、フジクラ、大和ハウスは心配いりません。・・・損を取り戻すにはこれしかないんです。・・・来年二月ころまでには損を取り戻します。」「・・・そこが私達の情報ですよ。いまここで詳しいことはいえませんが、ミサワの方が絶対有利なんです。」などと断定的判断を提供して勧誘した。

5 争点5について

Bは、原告の自宅への架電自体拒絶しているにもかかわらず、原告の朝の出勤時に原告の自宅に架電し、原告が当該勧誘について拒絶しているにもかかわらず執拗な勧誘を行った。

6 争点6について

それまで株の取引こそあれワラントの取引をしたことのない原告に対し、Bはワラントであることを明示せずに銘柄名のみを出して勧誘し、原告をして株の勧誘であると誤解させたまま話を進め、会う約束まで取り付け、会ってから初めてワラントであることを明示した。このような勧誘方法は違法である(訪問販売法九条の二参照)。

(被告)

1 争点1について

本件各ワラントが販売時に原告主張のようにギャンブルのチップ状態であったとしても、なお投資対象として適切性を欠くものではないから、これを一般投資家に勧誘すること自体は何ら違法ではない。

2 争点2について

原告の投資経験・投資目的・社会的地位等に照らすと、原告に対して本件各ワラント取引を勧誘することは、適合性に違反しない。

3 争点3について

Bは、原告主張の説明すべき事項について、原告の職業、年齢、証券取引に関する知識、経験、資力等に照らして十分な説明をしていた。

4 争点4について

断定的判断の提供の事実はない。

5 争点5について

Bの勧誘が熱心であったといいうるとしても違法とまでは評価できない。むしろ、原告において株式の評価損を取り返すためにワラント取引に関心があり、Bの勧誘にも積極的に耳を傾けていたということができる。

6 争点6について

Bは、本件各ワラント取引当初から、勧める証券がワラントであることを述べ、その内容・性質を説明しているから、原告主張の事実は存在しない。

第三争点に対する判断

一  前記前提事実に加えて、証拠(甲六、一〇、乙一ないし二一、証人B、同C、原告)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

1  原告は、被告との証券取引の前から、他の証券会社との間で証券取引を経験しているが、被告との間だけでも、平成六年一一月三〇日当時、過去取引の投資金額が六八一四万一六七八円に及ぶ証券取引をしてきており、特に平成元年から同二年にかけて数多くの証券を購入し、その後のいわゆるバブル経済の崩壊により、右当時二四八二万五四三二円の評価損を被っていた。

2  原告は、○○新聞の政治記者を経て、本件各ワラント取引当時、社団法人a協会の専務理事(常勤役員では最高位)を勤めており、年間約八〇〇万円の収入を得ていた。右a協会の事務所においては、毎日のように複数の新聞に目を通しており、当時新聞紙上でワラント取引による損害が社会問題として報じられているのを知っていた。

3  Bは、平成六年一一月末から原告の担当となり、直ちに前任者が担当していた原告の住所、勤務先等を記載した顧客属性(原告が口座開設登録時に作成されたもの)を確認したうえ、同年一二月一日、原告に対し、新任の挨拶のため電話したところ、原告から、前任者は電話だけで挨拶にも来たことがない旨苦情を言われたので、同日原告宅を訪問した。その際、Bは、平成六年一一月三〇日現在での原告が被告に保有する証券(ただし投資信託商品は除く)の購入額や時価等を記載した預り明細を持参して、原告に対し、右当時過去取引の評価損が多額に発生していることを説明した。これに対し、原告は、右評価損をなんとか取り返したいと思っている旨の発言をした。このときBが、シャンハイ・ハイシン株式の資料を示してその株の購入を勧めたところ、原告はこれに応じて手持の一部の株式等を売却した代金でその株式を購入した。

4  Bは、平成六年一二月七日、原告に対し電話して、原告の前記含み損(評価損)を解消する提案をしたいと言って原告との面談の約束をとり、同日、原告宅を訪問した。その際、Bは、平成五年末から同六年末にかけての日経平均株価とワラント価格の対応を示したグラフ(乙一四はそのとき提示したものではないが、この時示したものは、期間が違うだけで、他の内容は乙一四と同じタイプのものである。)を準備して、このグラフに基づき、ワラント価格の変動は株価の変動に伴うものであるが、株価よりも大きな割合で変動することすなわちワラントの高率性を説明した(原告は、原告本人尋問の中で、被告代理人から乙一四を示され、このような一枚の紙をさっと見せられたような気がするが、説明はなかった旨供述するが、この段階でBが右グラフを原告に一瞥させただけで、特にその説明をしなかったというのは不自然であり、特段Bが説明を避けたことを窺わせる証拠はないことからすれば、このようなグラフを用意していた以上、これに基づく説明がなされたと認定するのが相当であり、したがって原告の右供述部分は信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。)。そして、Bはさらに原告に対し、Bが原告に取引を勧めるワラントとは債権を切り離した新株引受権のことであること、ワラントには時間的価値、すなわち権利行使期限があり、それが経過してしまえば、その価値はゼロになること、時価の計算方法(外貨建ワラントの場合は、単価×数量×為替×額面の数式で算出される)、価格の知り方(ほとんどの銘柄は、日本経済新聞の一番下の段に「ユーロドル・ワラント店頭気配」という欄に記載される)を説明した(なお、この点につき、原告は、Bからそのような説明を受けていない旨供述するが、前記認定のとおり乙一四と同じタイプのグラフによる説明を受けていたのみならず、原告は右当時ワラント取引による損害が社会問題となっていることを知っており、さらに、後記認定のとおり友人がワラント取引によって損失を被っていることを知っていながら本件ワラント取引に応じていること、さらには乙一〇の説明書に綴られた確認書(乙四)に自ら署名押印しており、右説明書にはほぼ右説明と同じ内容の記載があること等の事情に照らせば、原告の右供述は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。)。しかる後、Bは、予め勧誘することを決めていた大和ハウス、フジクラ及びユニデンの各ワラントの購入を原告に勧めた。原告は、右三銘柄のワラントのうち、フジクラとユニデンについては、将来マルチメディアの時代が来るということで大変興味を持っていたが、大和ハウスについては、Bに対し勧めた理由を質問した。Bは、右の他の銘柄と同様、大和ハウスワラントについても、株価チャートを示して、底値をつけこれから株価が上昇しつつあること、業績も上向いてくるとみられること等の事情を話して、そのワラントも購入するよう勧誘したところ、原告は、やつと別表1の一枚目1ないし15記載の各株式を売却して右三銘柄のワラントを購入することを決意した。そこで、Bは、乙一〇の説明書(国内新株引受権証券取引説明書及び外国新株引受権証券取引説明書)を原告に交付して、それにざっと目をとおしてもらい、末尾に綴ってある確認書である乙四に署名押印してもらった。因みに右説明書には、①ワラントの定義、②ワラントは期限付きの有価証券であり、権利行使期間が終了してしまうと、その価値がなくなること、③ワラントの価格変動率は株価のそれに比べて大きくなる傾向があり、したがって少額の資金で多額の利益が得られることもある反面、投資金額の全額を失う危険性もある有価証券であるから、その仕組みや危険性について十分な研究を行うとともに、自分の資力、投資経験及び投資目的に基づいて、自分の判断と責任において、危険性を覚悟したうえで決断しなければならないこと、④外貨建ワラント(本件各ワラントはいずれも外貨建ワラント、就中ドル建ワラントである)は、証券会社を相手方として直接取引を行う「国内店頭取引」が中心であり、為替変動を受けること、⑤時価の計算方法、⑥価格等の発表方法等の記載がある。また、乙四には、「私は、貴社から受領した「国内新株引受権証券取引説明書」及び「外国新株引受権証券取引説明書」の内容を確認し、私の判断と責任において国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引を行います。」と記載されている。これらの記載は、活字も小さいとはいえず、またわかりやすい表現で記されている。

なお、原告は、右三銘柄のワラント購入を決断する前に、Bに対し、いつまでに自己保有の証券の評価損が取り戻せるか質問したので、Bは、過去の経験によれば一二月ないし二月の期間が非常に株価が値上がりする時期であることから、二月、三月ころに値上がりが期待できる旨答えた。

5  Cは、右同日、Bから原告が被告とワラント取引をすることになった旨の報告を受け、同日午後原告宅を訪問した。Cは、原告に対し、ワラント開設の御礼をするとともに、Bからワラントについての説明を受けたかどうか確認したところ、原告は、確かに右説明は受けたと認めるとともに、ワラントが社会問題になって、新聞等をにぎわしていること、ワラン取引をしている原告の友人がその取引で損をしていること等を話した。

このような経緯を経て、右三銘柄のワラントの購入が実行された。

6  Bは、平成六年一二月二二日、原告に対し、ワキタが本業の建機リースの業績が良いうえ、当時流行していたカラオケ事業に新規参入するという情報を得て、このことを話し、ワキタワラントの購入を勧誘した。原告は、ワラントの購入を渋り、最後にはBに対し、勝手にしろというような口調で電話を切ったが、Bは、原告との右電話の会話の様子から、これを半ば投げやり的に承諾した趣旨であると受け取り、右ワラントの購入を実行した。このワキタワラントは、Bの勧めがあり、原告は平成七年一月一七日に売却し、その結果約二〇万円の利益を得た。

7  平成七年一月一七日の阪神大地震の後、株式市場では復興関連銘柄である建設関連株に人気が相当集中していた。そこで、Bは、平成七年一月二六日、原告に電話し、当時市場で割安に評価されていたが、今後の値上がりが大変期待できた住友大阪セメントワラントの購入を、右の事情を話して勧誘した。原告は、当初「大地震を利用して儲けようとは思わない。」旨話していたが、Bが、復興関連で特需が見込まれる可能性が高いこと等を説明して説得したところ、右ワラントを購入することを決断し、MMFの資金等を購入資金にあてることになり、その購入が実行された。

8  阪神大地震の特需の発生による期待感を反映して、ミサワホームの株価の終値は、平成七年一月二七日が一〇五〇円、同月三〇日が一二五〇円、同月三一日が一三四〇円と急上昇し、一回ミサワホームワラントの価格も権利行使期限が一〇か月を割っていたにもかかわらず急激な値上がりを示していた。

そこで、Bは、平成七年二月一日、原告の出勤前の午前九時二〇分ころ電話して、大和ハウスワラントに比べてミサワホームワラントの方が値動きがよく、またミサワホームの株式が急騰していることを話して(原告は、右事情の説明はなく、ただBはここではいえない特殊情報がある旨の話しかしなかった旨供述しているが、同じ建設関連株に関するワラントの乗換えを勧める以上、その理由の具体的説明が必要なことは容易に推認することができ、そうであるとすればただ特殊情報であるとしか伝えなかったとは到底信じ難いから、原告の右供述部分はたやすく信用することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。)、大和ハウスワラントを売却してミサワホームワラントを購入するように勧誘した。これに対し、原告は、ワラント取引はこれ以上したくない旨何度も告げた。Bはこれにめげず、原告に対して「せっかく貴方のためにいい情報をもってきたのに、これに乗らない手はない。とにかく今回は私に任せて下さいよ」旨執拗にくいさがって、原告に電話を切らせなかった。原告は、出勤を急いでいることもあって、最後に腹を立てて「勝手にしろ」という口調で怒鳴り、電話を一方的に切った。Bは、これを勧誘拒否の返事とは受けとらず、半ば投げやり的に承諾したものと受け取り、右の購入手続を実行した。

なお、この交渉の際、Bから原告に対し、購入を勧める一回ミサワホームワラントの権利行使期限が一年未満であることを伝えた旨のBの証言部分があるが、右認定の交渉の経緯に照らせば、果たして右の伝達がなされていたかどうか疑問であり、仮にそれがなされていたとしても、右のような状況下において原告にその趣旨又は意味が十分に伝わっていたかどうかは相当に疑わしいといわざるを得ず、したがって、右Bの証言部分はたやすく信用することができない。

また、ミサワホームの株価は、平成七年一月三一日の終値は一三四〇円(乙一七の一〇)であったが、翌二月一日の午前九時の始値には一三三〇円(甲一〇)に下がっており、それをBは知りながら原告にミサワホームワラントの購入を勧めている(B証言)が、株価がたとえ上昇基調であっても一日の値動きにおいては常に上昇することばかりでなく、下落することもあり(甲一〇の平成七年一月三一日におけるミサワホーム株式の値動き参照)、原告にミサワホームワラント購入を勧める直前に株価が下がっていたとしても、それをもってBが今後値下がりが予想されるワラントを原告に勧めたとは到底認定することはできない。

9  Bは、平成七年二月七日、原告に電話して、同月一日に原告が購入した一回ミサワホームワラントの値が半値位に下がったことを伝えて、その売却を勧めたところ、原告は、「ばかにするのもいい加減にしろ」と言ってBを難詰したが、その売却には応ぜず、結局平成七年一一月二八日の権利行使期限(原告が被告から平成七年三月一七日ころ送付を受けた「ワラント権利行使期限のお知らせ」中には、原告が購入した一回ミサワホームワラントの権利行使最終受付日が平成七年一一月一四日であり、その日を過ぎると投資金額の全額を失う旨記載されている。)を徒過して権利消滅させた。

10  被告の場合、営業社員が顧客に勧めるワラントの来歴や被告における在庫等を意識してワラントの勧誘をすることはない。

11  Bは、被告の営業にあたって、ポイント数によりワラントを顧客に勧めたり勧めなかったりする区別はしていない。たとえば乙一四をみても、一〇ポイントを大きく下回るワラントが一か月足らずで一〇ポイントを超える値動きをしたものが複数見受けられ、このことは決して珍しくはないからである。

二  以上認定事実及び前提事実を踏まえて、次に本件各争点について判断する。

1  争点1について

原告は、本件各ワラントが一〇ポイント以下の低価格のワラントであるうえ、一回ミサワホームワラントに至ってはさらに権利行使期限一年未満であったから、このような劣悪な商品を販売すること自体が違法である旨主張し、これに付合する甲二(著者新保恵志の「デリバティブ」と題する著書)及び甲一一(東海大学助教授新保恵志の意見書)がある。

しかしながら、これらの証拠によっても、一〇ポイント以下のワラントがただちに理論的見地から商品として最悪であるとの証明はない。すなわち、一〇ポイント以下のワラントといっても、パリティ(株価から権利行使価格を控除した理論価格)やプレミアム(ワラントの流通価格からパリティ価格を控除したいわゆる割高部分)の大小、取引比率の大小が一様ではなく、また、ワラント価格は、①相場のムード、②人気の程度、③需要と供給、④時間価値によって変動するのであって、このような価格変動要素は銘柄毎に異なっている(甲一一、乙一四、証人B、弁論の全趣旨)。したがって、ある特定のワラントがよい商品であるか悪い商品であるのかについては、そのワラントに関して右諸要素を個別・具体的に検討しなければ判断し得ないのであり、一〇ポイント以下のワラントがただちに劣悪商品であると認めることはできないというべきである。現に前記認定したとおり、一時一〇ポイントを大きく下回ったワラントが一か月足らずで一〇ポイントを超える値上がりを示したものも決して珍しくはないのであるから、このことをも併せ考慮すれば、なおさらである。

もっとも、権利行使期限が残り少ないワラントの場合には、残存期間中に株価が上昇する期待が少なくなるがゆえに、プレミアムが大きくならず、ワラント価格の上昇が期待できなくなることもあるが、たとえ権利行使期間が残り少ない場合でも、株価が急上昇する政治・経済・社会情勢にあるときには、ワラント価格が急上昇することも皆無ではないのであるから、権利行使期間が残り少なく右期間の経過により無価値となるリスクと、短期間で大きな収益を得られるという期待との較量は、投資家自身の判断に委ねられるべき事柄であり、したがって個々具体的な場合において勧誘方法に違法があるかどうかが問題となることがあることは格別として、このような商品を販売したこと自体がただちに違法と評価されるべきではないといわざるを得ない。

よって、本件Bが本件各ワラントを販売したこと自体を違法と認めることはできず、したがって争点1に関する原告の主張は理由がない。

2  争点2について

以上認定の諸事実に照らせば、原告は、本件各ワラント取引の以前に被告及びそれ以外の証券会社との間に相当数及び相当金額の株式等の取引があったものであり、その取引による評価損についても十分に認識していたものである。もっとも、原告はワラント取引をするのが今回初めてであったが、ワラントは株式に比べてハイリスク・ハイリターン商品であるとはいえ、そのリスクは投資した購入金額を上限とするもので、たとえば商品先物等の信用取引のように当初の価格以上のリスクを負うものではないから、原告のような高い社会的地位及び社会経験のある者にとっては、本件ワラント取引が適合していないとはいえない。のみならず、本件の投資目的は、平成二年初頭ころからの株価の暴落に伴う原告の証券取引における損失を短期間に取り戻そうとする意欲によるものであり、その目的に照らせば、ギアリング効果(株価が上昇したとき、株価の上昇率以上にワラント価格が上昇する効果、甲二)により短期間に収益を得ることが可能なワラント取引が不適当なものであったとはいえない。

このような原告の投資経験・知識・投資目的・社会的地位等に照らせば、原告に本件各ワラント取引を勧誘することは、適合性に違反するということはできず、争点2に関する原告の主張は理由がない。

3  争点3について

前記認定した諸事実等に照らせば、原告が損害発生を主張しているワラント取引(したがってワキタワラントの取引は除かれる)中、少なくとも一回ミサワホームワラントを除くワラント取引については、原告主張の説明事項についての説明はなされていたと認められ、これらの取引についての被告の説明義務違反は生じないというべきである。

しかしながら、一回ミサワホームワラントについては、前記認定に照らせば、原告の納得を得た上での購入とはいえず、しかもBと原告との交渉時間が短かかったことからも窺われるように、権利行使期限が一年未満であり、そのことによるリスクは大きいこと等その意味づけについて取引通念上顧客が納得するに足りるだけの十分な説明はしていなかったと推認するのが相当である。

よって、右ミサワホームワラントの勧誘に際しては、Bに説明義務違反が認められる。原告の主張はこの点に限り理由がある。

4  争点4について

前記認定の諸事実等に照らせば、Bによる勧誘は相当に積極的なものであり、勧誘の理由に関する情報を原告に提供し、ねばり強く説得したことが明らかであるが、いずれも当時の市場や経済・社会動向、さらには自身の営業経験等に沿ったものであり、必ずしも合理性がない情報を確定的に原告に提供して勧誘したものと認めることはできないから、断定的判断の提供があったとはいえず、争点4に関する原告の主張は失当である。

5  争点5について

一般に証券会社の担当者による勧誘は、たとえそれが執拗なものであったとしても、それだけでは違法とはならず、それが公序良俗に反する等著しく不公正な場合に違法と評価するのが相当である。

これを本件についてみるに、ワキタワラント及び一回ミサワホームワラントの各取引を除くワラント取引については、Bの原告に対する勧誘が熱心かつ執拗なものであったことは認められるが、最終的には原告の納得を得て取引に至ったことが認められるうえ、その過程に公序良俗等に反するような勧誘方法がとられた事実はなく、したがってこれら取引に強引かつ執拗な勧誘による違法はない。

しかしながら、ワキタワラント及び右ミサワホームワラント取引については、原告はBの強引かつ執拗な取引に困惑し、憤って半ば投げやり的に取引に応じたことが認められる。このような勧誘は、取引に対する原告の自由な意思決定権を阻害するのみならず、社会正義の見地から到底許容することはできないというほかはなく、これが無断売買と評価できない場合であっても変わりははないというべきである。とりわけ、右ミサワホームワラントの場合は権利行使期限が当時一〇か月未満となっていた危険なワラントであったのであるから、Bは原告の十分な納得が得られていないと判断すれば、時間をかけて、しかも朝出勤前という時間ではなく、直接面談する等して原告の十分な理解を得るように努力すべきであり、これができない以上このような取引をすべきではなかったといわざるを得ない。

よって、ワキタワラント及び右ミサワホームワラントについては、この点に関する違法が認められるところ、右ワキタワラントについては、前記したとおり、原告に損害が発生していないから、本件においてこの違法による損害賠償の余地はない。

したがって、右ミサワホームワラントに関する限り、原告の主張は理由がある。

6  争点6について

前記認定の諸事実等に照らせば、この点に関する原告の主張は理由がない。

7  争点7について

右ミサワホームワラントについては、前記認定のとおり、Bに説明義務違反及び強引かつ執拗な勧誘による違法があったと認められるから、その使用者である被告は、それと相当因果関係を有する損害について民法七一五条に基づく使用者責任がある。

そこで、右の損害額について検討するに、右ワラントについては前記認定のとおり、権利行使期間を経過し権利消滅しているから、購入価格である九六九万一五〇〇円が損害額ではないかが問題となるが、前記認定によれば、原告は右ワラント購入後約一週間を経過した平成七年二月七日、Bから右ワラントを購入したが半値にまで値が下がったことを告げられ、その売却を勧められたにもかかわらず、これを放置し、権利行使期限を徒過させ、権利消滅させたものであるから、Bの違法行為と相当因果関係を有する取引損害は、原告がBによる違法な勧誘による右ワラントの購入を知り、その処分が可能になった時点、すなわち平成七年二月七日の右ワラントの価格を右購入価格から控除した残金をもって右相当因果関係を有する損害と評価するのが相当である。

しかしながら、さらに本件原告の損害を生じた原因についてみるに、前記認定事実によれば、原告がBの勧誘を明確に拒否しなかったこともその一因をなしていると認められ、さらに右の取引前にも原告はワキタワラントについてBから勧誘を受けた際同様の態度を示して、Bから勧誘を承諾したものと受け取られ、取引が成立してしまったことがあり、したがって本件ミサワホームワラントの場合もそれを予期すべきであったにもかかわらず、右同様の態度をとってしまったものであり、このような事情を斟酌すれば原告の過失割合を三割と評価して、前記方法によって算出された金額から過失相殺するのが相当である。

以上により原告の損害額を算定するに、右計算式によれば、原告の本件取引損害額は金三三八万円となる。

九六九万円(一万円未満切捨)(本件ミサワホームワラント購入額)÷二=四八四万円(一万円未満切捨)。

四八四万円×〇・七=三三八万円(一万円未満切捨)

また、原告は弁護士費用をさらに損害として請求しているところ、原告が弁護士に訴訟委任していることは弁論の全趣旨に照らし明らかなところ、本件訴額、訴訟の難易、訴訟追行の内容等に照らし、右取引損害額である三三八万円の一割相当額を弁護士費用として認めるのが相当であり、それによれば三三万円(一万円未満切捨)となる。

そこで、以上の損害額を合算すれば三七一万円となるから、原告の本訴請求中、三七一万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年六月二五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余の請求部分は失当として棄却されるべきである。

(裁判官 堀内明)

<以下省略>

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